サステナブルビジネスをつくりだす「研究者的思考」/JRE Station カレッジ(エコテックコース)第3回ダイジェスト
2022.10.26
新規事業の立ち上げにおいて、最初からリソースが充実していることは稀です。サステナブルビジネスのような新たな領域であればなおさらでしょう。ではその場合、何が事業を前進させる軸になるのでしょうか。本記事では、2021年11月9日に開催されたJRE Station カレッジ(東京駅キャンパス/エコテックコース)の第3回ダイジェストとして、株式会社リバネス・執行役員CBOの松原尚子による当日の講義の内容を紹介します。 →【第3回の実施内容はこちら】
仮説、検証、考察のサイクルをまわす「研究者的思考」
今回は、新規事業の種として自分が見つけた課題をいかに実現していくか、についてお話しします。まずお伝えしたいのは「仮説、検証、考察のサイクルをまわす」ということです。違う言い方をすれば、研究者的思考を身につけよう、ということになります。研究者というと、大学や研究所で何かを調査したり、分析したりしている人を想像する方が多いかもしれませんが、それは職業としての研究者です。私が今日お伝えしたいのは、研究者とは「職業」ではなく「生き方」だということです。つまり、誰もが研究者になれるのです。
例えばレオナルド・ダ・ヴィンチは、国家の命を受けて、絵を描いたり、科学の探求に当たっていたわけではないはずです。同様に、真実を知りたい、未知のことを解明したいといった思いで何かに取り組んでいる人は、誰もが研究者なのです。ただし、それで成果を出すには、研究者的な思考法が求められます。その鍵になるのが「仮説→検証→考察のサイクルをまわす」ということです。
具体的には、まず「問い」を立てることから始めます。これについては前回、詳しく話しましたが、自分にとって切実に感じられる問い、その解明に情熱を傾けられる問いを立てることが大事です。
※参考: 新規事業の鍵は「新しいか?」「面白いか?」「続けられるか?」/JRE Station カレッジ(エコテックコース)第2回ダイジェスト
失敗を単なる失敗で終わらせるか。それとも成功への一歩と捉えるか
自らの問いを定めることができたら、次に仮説を立てます。確かかどうかはわからない、でも、多分こうなるであろう、という仮の結論を設定するわけです。そして仮説を立てたら、その仮説が正しいかどうかを確認するために、どんな手法や手順を取ればいいか、という研究の計画を立てます。
そこまでたどり着けば、あとはその計画に基づいて実験や調査を行う検証のプロセスに着手し、そこで何かしらの結果が出たら、仮説が正しいかどうかを考察する、という流れになります。
ここで大事なのは、検証の結果として「仮説が間違っていた」となった場合にどうするかです。普通に考えれば、仮説通りにいかなかったのですから失敗です。しかし、「その仮説が間違いだとわかった」という意味では、検証のプロセスが前進したと捉えることもできます。
失敗を失敗で終わらせてしまえば、それは「単なる失敗」でしかありません。しかし、その失敗で学んだことを生かして、もう一度仮説を立て直し、再びチャレンジすれば、それは「次の一歩」につながります。そもそもの話として、研究のプロセスにおいて最初に立てた仮説が100%正しいなどということはまずありません。ですから、仮説→検証→考察のサイクルをぐるぐるとまわしていくことが大事なのです。
まず計画を立てる。次に手持ちのアセットを整理する
仮説→検証→考察のサイクルにおいて、世の研究者が最も頭を悩ませるのは「仮説を立てて、研究計画を立案する」という部分です。ここがうまく構築できていれば、研究はグッと前に進むことになります。逆に、計画が杜撰なものだったり、不備が多かったりすると、大抵はどこかで行き詰まることになります。優秀といわれる研究者は、研究計画を立てることに長けているのです。
では、研究計画はどのように立てればよいのでしょうか。これも手順に沿って話すと、最初にまずモデル図を作ります。どのような手法、どのような手順で研究を進めるのかを考案して、そのためには何が必要かということを洗い出します。
その上で、現時点で手元にあるアセットやリソース、例えば「施設」「機材」「人」「時間」「お金」などを整理してみます。メンバーは○人、時間は○○カ月、お金は○○万円という具合です。そこまで進めてみて「必要なものは全て揃っている」という場合は、何の問題もありません。そのまま計画を前進させるのみです。しかし実際には、そんな恵まれたケースはごく稀でしょう。
大事なのは「必要なものが揃ってない」場合にどのような判断をするか、です。いったん計画を中断し、必要なアセットが揃うまで待つべきなのでしょうか。そうではありません。「今あるアセットでできることは何か」を考え、とにかく実行に移すことが何より重要です。
学生ベンチャーだったリバネスは、何を自分たちのアセットとして捉えたのか
「とにかく実行に移す」というプロセスでは、最初のうちは大したことはできません。当初の計画が10だとすれば、そのうちの1か2しか達成できないこともあるでしょう。それでも、まずはやってみることです。1歩目を踏み出すことなしに、2歩目を踏み出すことはできないのです。
実は、私たちリバネスもそうやって創業からの20年間を積み重ねてきました。2002年に学生ベンチャーとしてスタートした当時は「子どもの理科離れ」が社会問題化し始めた時期だったこともあり、「科学に対する研究者と市民の認識格差を解消する」という壮大な目標を立ててスタートしました。しかし、その頃はまだメンバー全員が大学院生で、当然のことながらビジネス経験もお金もありません。できることは本当に限られていました。
それでも、「研究に対する情熱」や「メンバーそれぞれの母校のネットワーク」を自分たちのアセットとして捉えて、まずは「最先端科学を学校に届ける出前実験教室」から事業をスタートさせました。それを1歩目として、次の1歩をどうするか、その次の1歩はどうするか、という蓄積を繰り返すことで、少しずつ事業を広げていったのです。
繰り返しになりますが、とにかく考えるべきは「今あるアセットでできることは何か」です。これをベースに、ぜひ最初の1歩を踏み出してもらいたいと思います。
<本件に関するお問合せ先>
株式会社リバネス JRE Station カレッジ運営事務局
担当:立花、海浦
E-mail:[email protected]