何度も事業を立ち上げて理解した「新規事業に必要な3要素」 /JRE Station カレッジ(エコテックコース)第6回ゼミ ダイジェスト
2022.10.26
全ての新規事業が成功するわけではない、というのは厳然たる事実です。では、実際にいくつもの新規事業を立ち上げ、成功も失敗も経験した起業家はどういった着眼点で事業を興しているのでしょうか。本記事では、2021年12月15日に開催されたJRE Station カレッジ(東京駅キャンパス/エコテックコース)の第6回ダイジェストとして、株式会社雨風太陽(旧社名:株式会社ポケットマルシェ)・取締役の大塚泰造氏による当日の講演の内容を紹介します。 →【第6回の実施内容はこちら】
「起業家」として生きてきて、成功も失敗も経験
ポケットマルシェの大塚です。今日は「新しい事業を作るのに必要な3つの要素について」というテーマでお話します。
簡単に自己紹介しますと、いろんな事業を作っては売るを繰り返してきた、落ち着きに欠ける43歳です(笑)。最初に事業を興したのは学生のときだったので「学生起業家」、その後、「社会起業家」、さらにはいくつもの事業を立て続けに立ち上げたことから「連続起業家」と呼ばれるようになりました。ずっと「起業家」と呼ばれています。
最初はITを活用したマーケティング事業を始め、次いで2007年に沖縄で「琉球ゴールデンキングス」というプロバスケットチームを作りました。
その後、2011年に会社を売却したのですが、その10日後に東日本大震災が起こりました。それで、その年、『東北復興新聞』という新聞事業を始めました。さらに2013年には東北発の食べものが付いた情報誌『東北食べる通信』を発行。その一方で、2015年には農業用モニタリングデバイス『KAKAXI』事業を興しますが、これは失敗に終わります。そして、2016年に『ポケットマルシェ』創設へと至ります。そのほか、いくつか失敗した事業、成功した事業があります。
事業立ち上げに必要な「Passion」「Market」「Asset」
さて、「新しい事業を作るのに必要な3つの要素」とは何か。まず1つは、自分がやりたい、ということです。心の底からやりたいと思える、自分が情熱を傾けられるものです。英語にすると「Passion」ですね。そして2つ目は、社会に必要とされているということです。ここでは「Market」としておきます。
実は以前は、この2つがあれば事業を興せると考えていました。しかし、いくつか事業に失敗した経験から、もう1つ、欠かせないものがあると考えるようになりました。それが「Asset」です。つまり、自分がやりたくて、社会に必要とされていることでも、技術もノウハウも何もなかったら立ち上げるのは難しいということです。そのため、その後は、Passion、Market、Assetの3つの条件を満たしているか否かという視点でビジネスを考えるようになりました。
私が興した事業を例にとって説明しましょう。『東北復興新聞』は、日本人として東北の復興を手助けしたいという思いからスタートしています。東日本大震災の惨状を目にし、いてもたってもいられなくなった。そういう意味で、あふれるくらいのPassionがありました。
では、なぜ新聞だったかというと、東日本大震災は30以上の市町村に深刻な被害を与えたわけですが、お互いの連携が取れておらず、それが復興の足かせになっていました。そのため、それらの市町村をつなぐメディアが必要とされていた。新聞のMarketも間違いなくあったわけです。また、Assetに関しては、私も、当時いっしょに活動していた仲間も、さまざまなメディアを立ち上げた経験がありました。このAssetのおかげで、準備期間1ヶ月ほどで発行にこぎるけることができ、2週に1回のペースで発行しました。
その2年後に始めたのが、『東北食べる通信』です。東北地方でおいしいものを作り続けている生産者のインタビューや、旬の食材などを紹介する16ページほどの情報誌なのですが、ネットで購入すると、その情報誌で紹介している生産者が作った食べものが、情報誌と一緒に届きます。
私は食べることが大好きで、おいしいものを食べたいし、そのおいしさを子どもたちや多くの人にも知ってほしいという思いがありました。また、誰かがそうした生産者たちにスポットを当てないと、いずれ彼らは農業や漁業から離れていってしまう。それは私たちにとって大きな損失だという思いもありました。そういう意味では、Marketも必ずあると考えていました。加えて、『東北復興新聞』を通して構築してきた東北の生産者とのネットワークというAssetもあった。実際、この事業はきわめてスムーズに立ち上げることができました。
事業の成功と失敗を左右するのは「Asset」
私が関わった事業のなかで最大の失敗例である『KAKAXI』についても触れておきましょう。これは、温度計や湿度計、日射量センサ、カメラなどを搭載した農業用モニタリングデバイスであり、生産現場の見える化を目指して事業化しました。安心できる食べものを届けるというMarketはフィットしていたと思います。
実はこの『KAKAXI』は海外市場を想定して始めました。しかし、今思うとそれが失敗の要因の1つだったと思います。日本でそれなりの実績を残したから、次はグローバルな舞台で戦おうなんて、動機が不純ですよね(笑)。そんなものはPassionとは呼べません。
もう1つの失敗の要因は、自分が持つAssetを見誤ったことです。私にとって機械を作るという事業は初めてでしたが、当時はすでにソフトウエア技術者でもIoT機器を作れるようになっていたし、製品化は難しくないだろうと考えていました。ところが、実際には困難を極めました。部品の調達1つ取っても思うようにいかず、経営の難易度が高いことを思い知らされました。
じっくりと時間をかけて取り組めば実現できたとは思いますが、結局、断念することにしました。PassionとAssetが十分ではなかったからだと考えています。
その後、創設した『ポケットマルシェ』は、全国の農家や漁師などの生産者と消費者がダイレクトにつながるオンラインマルシェです。生産者は何でも好きなものを出品できるシステムなので、今までは流通の過程でこぼれおちてしまった珍しいものや貴重なものを消費者に届けることができます。現在、6,200の生産者が登録しています。
また、出品する生産者と消費者が自由に直接やりとりできるのも特徴です。普通、農家さんは段ボールにつめて出荷したら、それで終わりですよね。どこの誰が買ってくれたかはわかりません。その点、『ポケットマルシェ』に出品すると、実際に食べた人から感想が送られてくるし、それに対して返信をすることもできる。当然、モチベーションは高まるでしょう。
3つの要素の中で最も大事なのは「Passion」
以上、「新しい事業を作るのに必要な3つの要素について」というテーマで話しましたが、この3つの中でどれが大事かというと、私はやっぱりPassionだと思います。一番大切なのは、自分の気持ちです。自分が心から楽しいと思うことであれば、困難が立ちふさがっても乗り越えることができるものです。だから、皆さんには好きなことをやってほしい。
そして、リアルな行動を大事にしてもらいたいと思います。私は、人の知性は「読んだ本の数」と「会った人の数」と「移動した距離」に比例すると考えています。ぜひ、どんどん移動して、どんどん人に会って、異質な人とコミュニケーションをとっていってください。