世界中の企業と生活者を巻き込んで「経済と環境が両立する持続可能な循環型社会」を実現する /JRE Station カレッジ(エコテックコース)第5回ゼミ ダイジェスト
2022.10.26
生涯をかけて取り組もうと決めた課題(ディープイシュー)を新規事業として成立させるためには、周囲を「巻き込む」ことが不可欠です。では、「巻き込む」には具体的にどのように考えていけばよいのでしょうか。本記事では、2021年12月1日に開催されたJRE Station カレッジ(東京駅キャンパス/エコテックコース)の第5回ダイジェストとして、日本環境設計株式会社(現・株式会社JEPLAN) 取締役 執行役員会長の岩元美智彦氏による当日の講演の内容を紹介します。 →【第5回の実施内容はこちら】
15年前に「持続可能な環境型社会」を目指した
日本環境設計(現・株式会社JEPLAN)の岩元です。私は15年ほど前、「経済と環境が両立する持続可能な循環型社会を形成する」という理念を掲げ、リサイクル事業を始めました。
当時は誰も本気でそんなことができると思っていませんでした。そこで、経済と環境が両立しないというイメージ自体を変えていくために、最初に、主語を「生活者」にすることを決めました。1人ひとりの生活者が中心となる、生活者参加型の「循環型社会」を目指そうと思ったわけです。そして、それを実現するために「循環のトライアングル」と銘打ち、3つのことをやろうと決意しました。
「化学的リサイクル」で半永久的な再利用を可能に
まず1つは「技術」です。不用品や排出物を再生して利用するという試みは、すでに多くの企業が行っていました。しかし、その多くは一、二度再利用するだけでした。なぜなら、「物理的リサイクル」、つまり、回収したものを洗ったり切ったり削ったりして再生する方法だと、材料が劣化してしまうので、何度も再利用することが難しいと言われています。そこで、私たちは物理的リサイクルでなく、材料に化学的な処理を施して分子レベルで再生する「化学的リサイクル」を目指しました。この方法だと10万回でも100万回でも半永久的に再利用できるのです。
まずは繊維や金属、プラスチックなどを化学的にリサイクルする工場の建設に着手しました。前例がないので困難も多かったのですが、竣工から1年ほど試行錯誤を繰り返した結果、世界でも革新的といえる化学的リサイクル工場を稼働させることができました。
ちなみに私たちは、化学的リサイクルによって作り出した原料を「地上資源」と呼んでいます。石油から作ったものが地下資源、皆さんが不要になって捨てたり、排出したりしたゴミを原料に再生して作ったものが地上資源です。
物理的リサイクルで再生したものは、再利用する回数に限界があったり、使用対象が限られてしまうことがあります。再生しても色や添加物を取ることは困難と言われていますから、使える用途も限られてしまいます。そのため、継続的に使い続けることができる「資源」とは言い難い。それに対して、化学的リサイクルで再生した地上資源は、何回でも再利用できるうえ、用途の可能性も非常に大きい。つまり、地下資源と同様のクオリティで、なおかつ繰り返し使うことができるのです。
回収ボックスの設置を通じて、みんなが参加する仕組みをつくる
次に私たちが目指したのが「みんな参加型のリサイクルインフラ」です。みんなが役割を終えたものを持ち寄るような仕組みを作ろうと考えました。
具体的にいうと回収ボックスの設置です。アンケートの結果、「商品を買った店に回収ボックスがあるといい」ことが分かったため、大手企業を中心に回収ボックスの設置を依頼しました。アパレルメーカー、日用品メーカー、家電メーカー、百貨店、スーパー、コンビニなど、さまざまな企業に声を掛けたのですが、その多くが賛同してくれました。今はアパレルメーカーを中心に協力企業の数は300社以上に及んでいます。
「わくわくドキドキする仕掛け」で行動につなげる
こうして役割を終えた品を再生する工場と、ものを回収する仕組みを作り上げましたが、「持続可能な循環型社会」を実現するには、もう1つ、解決しなければならない課題がありました。人々に行動を起こさせることです。
そこで、3つ目に目指したのが「正しいを楽しいに」です。私たちは、リサイクルに参加するのは楽しいことなんだ、わくわくドキドキすることなんだと伝えることが重要ではないかと考えました。そのため、みんなが積極的に参加したいと思うようなプロジェクトを立ち上げました。
まず実施したのが、米国の人気映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で描かれたように「デロリアン」をゴミで動かすというプロジェクトです。「私たちは地上のゴミを資源に替えて、循環型社会を作りたい。地下資源から地上資源に転換すれば資源を求める争いがなくなるので、戦争やテロもなくなる。その結果、子供たちに笑顔をもたらすことができる」といった趣旨を添えて、ハリウッドに提案したところ、快諾してくれました。そして、2015年に古着から作ったバイオ燃料でデロリアンを走らせるというイベント開催を実現したのです。この様子は、YouTubeで見ることができるので、興味のある方はぜひご覧になって下さい(https://www.youtube.com/watch?v=qDM6qtDAyhM)。
さらに2018年には、同じく衣料品で作ったバイオ燃料で飛行機を飛ばす「10万着で飛ばそう! JALバイオジェット燃料フライト」を実施。「ボロボロのTシャツで飛行機を飛ばそうぜ!」の声掛けに、実に25万人の子どもたちが参加してくれました(*参加人数は集められた洋服の点数をもとに算出)。
もう1つ、世界的なスポーツ競技の大会での試みにも触れておきます。その大会では、メダルとユニフォームの製作に携わらせていただきました。メダルは、携帯電話などの電子廃棄物をリサイクルして、日本選手団のユニフォームは皆さんにお持ち込みいただいた古着をリサイクルして製作しました。このスポーツ大会で、ユニフォーム姿でメダルを掲げている選手たちの写真をたくさんご覧になったと思います。あのユニフォームも、そしてメダルも、紛争の原因となる地下資源ではなく、地上資源で作られたものたちです。
これからは「経済よし、環境よし、平和よし」の三方よしを目指す
15年前、「経済と環境が両立する循環型社会を形成したい」と言って笑われましたが、経済と環境の両立は可能なのです。それに加えて、地下資源を使わなくなるので「平和」ももたらしてくれます。皆が地上資源を使用した製品を買えば買うほど経済はまわり(経済によし)、CO2は削減され(環境によし)、戦争やテロがなくなる(平和によし)。つまり、地下資源から地上資源への転換は「経済よし、環境よし、平和よし」の「三方よし」でもあるわけです。
H&M、スターバックス、IKEA、アディダスなど世界中のあらゆる業種の企業が、今後は再生素材または再生できる素材を採用したモノづくりを進めるという方針を掲げており、世界の潮流になりつつあります。
これまで人類は地下資源の争奪戦争を繰り広げてきましたが、もうやめなければなりません。とはいえ、お金や武器に頼ってもやめることはできません。では、どうすればいいか。誰もがわくわくドキドキできる、消費者参加型の循環型社会を作る──。私はこれしかないと確信しています。
<本件に関するお問合せ先>
株式会社リバネス JRE Station カレッジ運営事務局
担当:立花、海浦
E-mail:[email protected]