JRE Stationカレッジ特別講義 「個」の確立で、前向きに動く組織をつくる
2023.09.15
この特別講義は、JRE Stationカレッジの後期開講に先駆けて開催したものです。2025年、日本の労働人口の過半数をミレニアル世代以降が占める時代が訪れます。人々の価値観が大きく変わり、ビジネスの概念も「競争」から「共生」へシフトすることが予想されます。そんな時代に求められる「前向きに動く組織」とは何か。個々のビジネスパーソンやリーダーにはどんな行動が求められるのか。登壇いただいたのは、守旧に傾きがちな日本的大企業の中で確たる「個」を打ち立て、数々の実績を築いてきた方々。そんな顔ぶれだからこそ語れる、貴重なヒントが詰まった講義です。ぜひご一読ください。
競争から共生へ。目前に迫るビジネスの転換点
モデレーター(以下、立花) 講義に先駆けて、導入として私から少しお話ししたいと思います。2年後の2025年には、日本の労働人口の過半数をミレニアル世代(1980年〜1990年代半ばに生まれた世代)以降が占めるという大きな転換点がやってきます。そうなると、日本人の価値観は大きく変わり、ビジネスの概念も「競争」から「共生」へ変わっていくと我々は考えています。JRE Stationカレッジの講義もこの考えに基づいたものです(価値観の変容やリバネスの考え方についてはこちらの記事やこちらの記事もご参照ください)。
我々は、ここで必要なのは従来の「競争型」ではなく「共生型」のビジネスだと考えています。いかに相手を倒すかではなく、いかに社会の課題を解決するのか。隣の会社と争うのではなく、手を組んで課題を解決していく。ヒト・モノ・カネを、売り上げのためだけではなく課題解決のために組み合わせていくようなビジネスが、これから主流になるだろうと考えています。
今日ここに来てくださっているのは、それを恐らくひしひしと感じて、このままのビジネスのやり方では駄目だ。とはいえ実際どう変わっていけばいいのだろう?──そんな思いを抱いている方々だと思います。
この特別講義のテーマは、「『個』の確立で、前向きに動く組織をつくる」です。前向きに動く組織をつくるためにはどうすればいいのか。登壇者の皆様と一緒に考えていきたいと思います。
仕事観の形成に影響した「心が打ち震える経験」
立花 まずは登壇者の皆様の自己紹介代わりに、お仕事に対する考え方や仕事観を象徴するエピソードを聞かせていただけますか?
■新貝 康司 氏
元日本たばこ産業株式会社 代表取締役副社長兼副CEO
1980年京都大学大学院電子工学課程修士課程修了後、専売公社(現JT)へ入社。 製造部門のキャリアを積んだ後、本社で中期技術開発計画の策定をリードするとともに、製品開発体制を再構築。1989年に渡米し、JT America Inc.社長として、米国バイオ製薬スタートアップ、米国VCとの提携を発掘・推進。1996年に帰国後、経営企画部で企業変革、企業買収に従事。2007年には、当時日本企業が行った最大の買収である英国のグローバルたばこ企業Gallaher社を買収し、その統合・買収後経営を指揮。2011年〜2018年までJT代表取締役副社長。多くの企業で社外取締役、顧問を務めるとともに、将来を担う複数のスタートアップ育成にも取り組んでいる。
新貝 新貝と申します。私はもうすぐ68歳なのですが、1980年にJT(日本たばこ産業)に入り、工場現場でさまざまな仕事をしました。その後、1989年に米国に渡って、当時日本の企業ではあまり例がなかったスタートアップ企業との提携を発案して、多くの会社と共同研究開発を推進しました。
その中で1つ、素晴らしい成果を挙げることができたものがあります。それはHIV(エイズ)の薬です。スタートアップと一緒に、患者さんが入院せずに普通の生活をしながら治療ができる薬を開発しました。米国は国民皆保険制度がないので、自分で保険料を払って、医療保険を買わなければいけません。だから、経済的に余裕のある人でなければ入院して治療するとことが難しいという事情があります。それは「お金の切れ目が命の切れ目」という厳しい現実でした。しかし、我々がつくった薬によって、働きながら治療を受けるという普通の生活を送れるようになったわけです。
当時私は30代でしたが、そのプロジェクトをリードしながら、社会課題に刺さる成果を上げることができ、心が打ち震えました。また、スタートアップはこんな風に社会課題を解決する、そういう存在であり続けてほしいとも思いました。
私は今、エンジェル投資、スタートアップの社外取締役、顧問などをしていますが、やはり社会課題に刺さるような仕事がしたいと思っています。その原点は、今お話しした30代の時の経験です。振り返ると、この時代の経験によって「何のためにこれから自分の時間を使うのだろうか?」ということを考え、地球規模で物を考えることのきっかけを与えてもらったと思っています。私にとっては大きな財産です。
立花 ありがとうございます。続いて竹島さん、お願いします。
■竹島 博行 氏
東日本旅客鉄道株式会社 執行役員マーケティング本部副本部長
1990年東日本旅客鉄道株式会社入社後、住宅開発、沿線開発等に従事。グループ企業の経営管理やM&Aを主導したのち、2013年より同社シンガポール事務所副所長として、日本の情報発信拠点「Japan Rail Café 」の開業や、アジア諸国の鉄道会社からの要請による沿線開発支援コンサルティング゙を行う。帰国後、同社東京支社事業部長を経て2019年より本社事業創造本部にて首都圏大規模ターミナル開発を牽引。2023年より現職。輸送サービス、IT・Suicaサービスの融合と連携による新たな価値創造に取り組む。
竹島 JR東日本の竹島と申します。私はちょっと砕けた感じでいこうかと思います。私は入社以来、「仕事は半人前、言うこと一人前、食うのは二人前」という風に考えてきました。仕事は半人前というのは、自分の仕事なんか半人前だと思う謙虚さが大事だと思う一方で、まだまだやれる、もっとできるという意味です。言うこと一人前というのは、やっぱり若者やアイデアを持っている人が一人前に物を言って、世の中を変えていかないといけないという考えです。そうやって意見を言っていくと、当然、叩かれたりするんですが、逆にかわいがってくれる人も出てきます。
最後の食うのは二人前というのは、一緒にたくさんお酒を飲んだりご飯をいっぱい食べたりしていると、何だかんだとかわいがってもらえるんですね。うちの社内を見ていても、小さな新規事業でも成功させてうまくやっていける若手は、すごく元気で、遊びなんかも一生懸命やっています。それで生意気に「まだまだ仕事はやれます」とか言うんですよ。今日集まっていただいた皆さんは、新規事業を起こすとか、トランスフォームしたいといった方が多いと思いますが、私としては今お話ししたような辺りがヒントになるかなと考えています。
立花 ありがとうございます。では最後に井上さん、お願いします。
■井上 浄
株式会社リバネス 代表取締役社長CCO
博士(薬学)、薬剤師。2002年、大学院在学中に理工系大学生・大学院生のみでリバネスを設立。博士過程を修了後、北里大学理学部助教および講師、京都大学大学院医学研究科助教、慶應義塾大学特任准教授を経て、2018 年より熊本大学薬学部先端薬学教授、慶應義塾大学薬学部客員教授に就任・兼務。研究開発を行いながら、大学・研究機関との共同研究事業の立ち上げや研究所設立の支援等に携わる研究者であり経営者。武蔵野大学アントレプレナーシップ学部客員教授、経産省産業構造審議会委員、文部科学省技術専門審査員、JST SCORE-大学推進型委員会委員等も務め、多くのベンチャー企業の立ち上げにも携わり顧問を務める。
井上 リバネスの井上 浄と申します。私は21年前にリバネスという会社を仲間15人で立ち上げました。私自身は研究が好きということが原点になっていて、大学ではウイルスとか免疫の研究、薬学の研究をしていました。なぜ研究が好きかと言えば、世界初が自分の手で、目の前で証明できることにとにかく魅了されたわけです。今も魅了され続けています。
そういう研究をずっと続けたいという思いがあり、また自分で世の中を変えていけるような、世界一面白い研究所をつくってやろうという思いでリバネスを立ち上げました。世界一面白い研究所をつくろうと思っているという話をしたら、「お前もか」みたいな仲間が集まってできたのがこの会社です。創業時からずっと、研究者集団リバネスとして「科学技術の発展と地球貢献を実現する」をビジョンに掲げています。
■立花 智子(モデレーター)
株式会社リバネス ひとづくり研究センター センター長 生命科学(修士)
中高生研究者向けの助成や若手研究者による研究コーチ活動を通し、学校教育の支援を行う。2019年より人材開発へ移行し、博士へと成長したかつての中高生研究者の支援を続ける。ひとづくり研究センターでは、研究者に代表されるような自らの好奇心や課題意識から知識を生み出していく人のための新たな働き方や組織づくりを研究している。
「個」の確立に必要なオーナーシップマインドとインテグリティー
立花 それでは、本日の講義のテーマに入っていきたいと思います。前向きに動く組織をつくるという意味で、皆さんはリーダーとして、部下やチームメンバーの「個」の確立のためにどんなことをされていますか?
新貝 ものすごく難しい質問ですね。ただ、自分を含め成果を挙げている人材に共通していることがあると思っています。それは「オーナーシップマインド」です。よく日本では当事者意識と表現しますが、私はそれとはちょっと違うと思っています。
昔、お役所のことを評して「国益なくして省益あり」という言葉がありました。国益ではなく自分が所属している省の利益を考えるという意味です。ここでは、例えば○○省にいる人には、省益を最大化しようとして、当事者意識がすごくあるんですよ。でも、本当にそれが素晴らしいことかといえば、違うでしょう。そうではなく、仮に自分がこの国のオーナーだったとして、国のために、国民のために何を考えてどう行動すべきかを考えるのが、オーナーシップマインドだと思います。
さて、私が20代のときに、ちょうど専売公社からJTに変わったばかりの頃のこと。当時は文系向けのポストのほうがたくさんありました。私のような技術系向きのポストが少なかったので、同じ技術系の先輩の中には嫉妬と怨嗟の気持ちを抱いている人もいました。その人たちが何をやったかというと、子会社をつくってポストをつくり始めたわけです。私はそれを見て、全然美しくないと思いました。それは本当に会社のためになるのかと。
そのときに、私は2つのことを学びました。1つは、仕事をするときは常に「この仕事の究極の目的は何だろうか」を考えようということ。もう1つは、高い視座で物事を考えて「今やっていることは本当に胸を張れることなのか」と考えることです。これが恐らく、オーナーシップマインドにつながっていったのではないかと思います。
もう1つ大事なのは美意識ですね。美意識の中にはインテグリティーという言葉があります。日本語では誠実さとか、高潔さとか、真摯さと訳されます。3つを統合したような概念だと思ってください。インテグリティーがないと、どれだけスキルを磨いても、そのスキルを使って向かう先が社会のためになりません。そうすると、いつまでたっても競争型のままで、共生型になり得ません。だから「個」の確立というのは、非常に難しいですけれども、高い視座を伴ったオーナーシップマインドを持つこと、それからインテグリティーを鍛えることだと思います。
立花 それぞれのメンバーがオーナーシップマインドとインテグリティーを持つことが「個」の確立につながるのですね。
竹島 今日ここに来る前に、知人からあるカタログ通販大手の会社が持っている哲学がすごく勉強になると聞いて、まさに「個」の確立というテーマと一致すると思ったのでご紹介します。その会社は今でこそ名の通った大手ですが、昔は今でいうスタートアップのような会社だったそうです。同社の当時からの哲学の中に「共感的な傾聴、能動的な発言。そうして確立した個人がみんなと議論を尽くすことで良い組織をつくることができる」と書いてあるそうです。
「個」の確立というと自分を中心に考えがちですが、「個」を確立するためには実は人の話をよく聞くことが大事だと。MBAのクラスなどで言われるコントリビューションですね。自分の話を聞いてくれではなくて、みんなの話を聞いた上で、自分はこう思うよと議論を深める発言をする。それが確立した「個」であり、そういう確立した「個」の集団が組織を強くするのだということです。これは非常に参考になるのではないかと思います。
新貝 2年くらい前ですが、経営雑誌の『日経ビジネス』に、ジム・コリンズという方の記事がありました。元スタンフォードの教授で、有名な『ビジョナリーカンパニー』というビジネス書のシリーズを著した方です。その記事の中に「リーダーシップとは、部下にやらなければならないことをやりたいと思わせるアートである」との定義がありました。ここでのアートとは、部下にやりたいと思ってもらうために、その人の持っている全人格的なもの、真・善・美の全てを駆使するということです。これが駄目ならあの手も使ってみようといった具合です。つまりリーダーとなる人は、それだけの意志とパッションがあるかどうかが大事だということです。
立花 意志やパッションが現場の方や上の方を動かすという意味では、リーダーだけでなく全ての人に当てはまる気がします。
新貝 そのとおりですね。先ほども申したように、自分の仕事で必要とするよりも高い視座を、自分がまず養うこと。それを上司にぶつけるというよりは、それを用いて対話をすることが大事だと思います。例えば、これが今、何か社会にとって大事であるということが、自分たちの会社にとっても大事なのだということを、ちゃんと対話できるかどうかが重要だと思います。
立花 新貝さんも初めてベンチャー投資をされたときにも、本社の方とたくさん対話されたのでしょうか。
新貝 そうですね。33歳で渡米して、1年後からいろんな提案をしました。対話をするために頻繁に日本に出張しましたね。提案を始めて1年後、ようやく35歳のときに最初の提携がまとまりました。
次世代の企業の在り方を示す「ビアサイクルモデル」
立花 竹島さん、対話から生まれた事業という意味で、竹島さんが今、JR東日本で手掛けていらっしゃるものはありますか?
竹島 このカレッジがまさにそうです。確立した「個」というテーマと同時に、その確立した「個」を生かす組織を育みたいというのが大きな課題感としてあります。
私は三十数年前に、国鉄改革によってJRが発足した直後に入社しました。当時の国鉄は典型的なお役所仕事で、借金は多い、サービスは悪いという組織で、利用者からも全く支持されていませんでした。それを何とかしたいということで、政治が大ナタを振るって分割民営化を行い、JRができました。
そういう時代だったので、私が入った頃のJRは課題が山積みでした。JRに限らず、その頃の日本企業の多くは、大航海時代に荒波の海を強引なキャプテンの手腕で渡っていくような、いわば「キャプテンモデル」だったと捉えています。当時の上司を思い出すと、やはりキャプテンみたいな人が多かったですね。とにかく上意下達で、「個」なんてものは全然認めてもらえない世界でした。
それから10年くらいたつと、次第にまともな会社になってきました。黒字化して、就職希望企業ランキングも上がってきて、自分たちが戸惑うほどの変わりようでした。この頃のJRは、さながら航空機や鉄道のように安定運行・高品質を追求する、いわば「パイロットモデル」だったと思います。つまり、駅員はこれをやる、運転手はこれ、事業開発のメンバーはこれといった計画を決めて、アサインをして、チェックをしていく。PDCAといっていいかもしれません。マネジメントも指揮命令系統に基づいて、担当範囲が明確になりました。
これが現在も日本の多くの企業で続いているモデルですが、パイロットモデルには大きな課題があると思っています。役割分担が明確化して自分の仕事はこれだと決まっているがゆえに、他者から要請される仕事が全部、余計な仕事になるからです。つまり、業務が線引き化されて、系統意識が強化されてしまうんですね。例えば新幹線を動かしている部隊と、我々のように事業を担当している部隊が完全に線引きされてしまって、本当は越境解決すべきことができないといった事態が起きます。これをどうやって変えようかと思ったときに、私が言い始めたのが「ビアサイクルモデル」です。
立花 ビアサイクルというのは、10人前後で乗る移動式のビアカウンターですね。カウンターに座ってビールを飲みながらみんなでペダルを漕いで、つまりエンジンではなく人力で移動するという。
竹島 それです。会社なので、みんなで一緒になって同じ方角に向かわなければいけません。同じ方角というのは、中期計画とか年次計画で示されるものですね。一方で、社員の転職や離職などで入れ替わりもありますし、計画通りにはいかない部分も多い。そうであるならば、「個」というものの確立をベースにしながら、組織としては結構フラットでありつつ、それでもその「個」たちがみんなである方角に向かっていくという感じになるだろうと。そういう組織を私はビアサイクルモデルと呼んでいます。
このモデルで管理者は何をするのかというと、ビアサイクルのハンドルを握っている人のような立場です。みんなのための場の設定をしてあげたり、こっちに動きますよという合図を出したり、伴走者になってあげたり。みんなでこういうことをやっていこう、その先にはこういうことがあり得るよねと、夢を語る力であるとか。こんなものが大事なんじゃないかなと思っています。
今、日本の大企業や安定した成功ビジネスを持っている中小企業などは、パイロットモデルの次を考えなければいけない段階になのではないかと感じています。ミレニアル世代が働き手のメインになったときに、彼らの価値観は今とは全く違ってくるはずです。だからそこに対応できないと、みんな辞めてしまうんじゃないかと思います。
立花 そういうフラットな組織をつくっていくために対話をして、上司、部下関係なく巻き込んでいくことをリバネスでは「ブリッジコミュニケーション」と名付けて、今、竹島さんたちと一緒にJRE Stationカレッジの中でカリキュラムをつくっています。
井上 今、ここに来られている皆さんが想像されている「前向きに動く組織」が、もしかすると我々の認識と合ってないかもしれないと思ったので、ちょっとお聞きしたいんですが、皆さんだったらどんな組織をイメージしますか?
我々は、例えば100人なら100人の組織の中で、「個」の確立をした人が面白いアイデアを出し、チームをその場で組んで、新しい事業をつくっていく。失敗しても、もう一度チャレンジできる、そういう組織だと思っています。
例えばマンガでいうと『キャプテン翼』……は古いかな、もう少し新しいところだと『ブルーロック』とか。ああいうチームを描いた作品には、必ずチームの中の誰かが主人公になった回がありますよね。そいつが活躍して、もしくは失敗して、それでもチームが前に進むといった展開。それが我々が持っている前向きに動く組織のイメージです。
リバネスはメンバー全員が修士・博士を取得しているので、それぞれ自分の専門分野という強みを持っています。その中で「個」の確立をするために、先輩方と話をしながら、社内で発言しながら、自分にどんどんフラグを立てて、また自分にどんどん投資していきます。私はこの社会課題に対してタックルしたい、この先輩と一緒にやりたい、あのベンチャーを巻き込みたい、あの研究者を巻き込みたいと言って、プロジェクトを組成して、それをどうやってビジネスにするかという考え方でプロジェクトを前に進めていく。そういうやり方です。
このJRE Stationカレッジも同様で、「個」が考えたことをどうやってみんなで達成していこうかと話すところから始まるような場だと思っています。我々自身がそういう人材育成モデルをつくってきて、それを他の企業にも展開していこうということでJR東日本さんと一緒につくり上げました。
10年後のために明日から行動を変える
立花 ありがとうございます。それでは最後に、参加者の方々に向けてメッセージをいただければと思います。
竹島 では、ちょっと宣伝めいたお話をさせていただきます。リバネスさんは、イノベーションを生み出すモデルとして「QPMIサイクル」というものを提唱しています(参考)。QPMIはQuestion、Passion、Mission、Innovationの頭文字です。
面白いのは、Question、Passionの後にMissionが来るところです。普通会社ってMissionを先に言いたがりますよね。だけど、QuestionとPassionが先です。自分たちは何を目指すんだっけというQuestionがまずあって、そのQuestionが、自分たちで情熱を傾けてやるに値するのかというPassionと結び付かなければ、Missionも何もないという考えですね。この辺りを、JRE Stationカレッジでも伝えていきたいと思っています。
例えば、IT分野の優れた商品で、お客さまのビジネスのサポートといったビジョンがしっかり決まっていて、コストをどうする、どうやってシェアを取る、どうやってもっと売るみたいなテーマのときは、いわゆるMBA的な戦略論で答えが出せると思います。ただ今は環境が大きく変わって、そもそも世の中がどうなるかとか、そもそもこの会社で何を目指すのかとか、自分で問いを立てて、そこから新しいものをつくっていくような時代になりつつあります。そうなると、MBA的な戦略論よりももっと前段の、自分の会社で自分たちは何をするのか、何を目指すのかという議論が大事になります。そういうときに役立つ考え方がQPMIだと私は理解しています。
井上 私が言うべきことを竹島さんが話してくださいました(笑)。ありがとうございます。では私からも一言。もう一度言いますが、私は、失敗しても何度でもチャレンジできて、そこから新しい価値が生まれ続ける組織が、前向きに動く組織だと思います。その中で自分が何をやるのか。自分の能力と、これから自分で投資して身に付けていくものと、周りと一緒にやっていくものと、その組織が向いている方向と。この辺りを見ながらJRE Stationカレッジで議論していきたいです。
新貝 自分が何をやりたいのか、まだ分からない人も多いと思います。でも、身の回りに色々なロールモデルがいるかもしれないですね。別に会社の中じゃなくてもいいんです。そういう人たちを見ながら、10年後、自分はどうありたいかということを、皆さんも考えられるのではないでしょうか。
その上でまず、10年後のゴールを決めます。その10年後のために、最初の3年たったときに、自分はどうなっていたいかと考えてみる。その3年後のために、最初の1年のマイルストーンを決める。それをやろうとすると、明日から行動を変えないといけないはずです。だから、10年後、3年後、1年後を考えて、明日から自分の行動をどう変えるかということを考えてみてはいかがかなと思います。
立花 考えるだけでなく、行動を変えることが大事なんですね。
新貝 企業文化とか組織風土という言葉がありますね。企業文化とは何かというと、行動のパターンなんです。英語では「Corporate culture is defined as a pattern of behavior which is reinforced or penalized by people, systems over time.」と定義されます。つまり、企業文化とは行動のパターンである。行動のパターンとは周りの人々とか人事制度、評価制度といったような制度によって強化されたり、痛い目に遭わされたりして、時代とともに形成されていくものだということです。
だから、もし会社を変えたかったら、行動を変えましょう。頭の中のマインドセットを変えることはできません。見えないものは変えられませんから。でも、行動は見えるから変えられます。会社を高い視座から考えて、自分たちはこういう行動を強化すべきではないかとか、どのような行動を改善すべきかということを、例えば同僚、部下、上司と対話を始めることはできる。そのためには「隗より始めよ」なので、自分がまず明日から変わることが大事だということで、締め括りたいと思います。
立花 ご登壇の皆様、ありがとうございました。
<本件に関するお問合せ先>
株式会社リバネス JRE Station カレッジ運営事務局
担当:立花、海浦
E-mail:[email protected]